AEDの実績と現状の課題

AEDの効果的な配置とは?AED設置基準ガイドラインを解説

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2004年に一般市民による除細動が認められて以来、日本国内ではAEDの設置が急速に進んでいきました。しかし個々の民間組織によってバラバラに設置が進んだ結果、全体としては効果的なAED配置がなされていないのではないかという懸念が生まれています。

そうした状況を鑑みて、日本循環器学会AED検討委員会と日本心臓財団から「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」が発表されました。「AEDはどういった施設に、どのように配置すべきなのか?」という問題への解決の指針となる提言です。

以下ではAED設置のガイドラインである「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」について解説しました。

「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」とは?

日本国内のAED設置台数は2016年には約59万台であると推計されており、これは世界的に見てもトップレベルの設置状況です。しかし、同じ2016年に一般市民によって目撃された心原性心肺停止傷病者のうち、AEDで除細動が行われたのはたった4.7%にとどまっています。

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AEDの設置台数は十分なのに、なぜAEDの使用率が低いままなのか?この問いに答えたのが日本循環器学会AED検討委員会と日本心臓財団から発表された「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」です。

この提言では、日本のAED設置が個々の民間団体によって自主的に進められたが故に、結果として統一的ではなく戦略性を欠いた配置になってしまったり地域的な偏りが出てきている点が指摘されています。そして、こうした状況を克服して心臓突然死を減らすために、AEDを公平で効率的、効果的に配置するための基準を提示しています。

AED検討委員会とは?

「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」(以下、「AED配置提言」)を日本心臓財団とともに作成したAED検討委員会は、日本での一般市民へのAED解禁を実質的に主導した組織です。日本循環器学会内に設けられたAED検討委員会が厚生労働省に再三提言を行なった結果、日本での一般市民による除細動が認めらることになったのです。

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この日本のAED普及において中心的な立場にある委員会によってなされた提言ですので、「日本のAEDが戦略的に配置されていない」という問題は私たちが取り組むべき深刻な課題であると言えるでしょう。

「AEDの適正配置に関するガイドライン」とは?

また「AED配置提言」をベースにして、救急医療財団からも「AEDの適正配置に関するガイドライン」が発表されています。内容は「AED配置提言」とほぼ変わりませんが、「AEDの適正配置に関するガイドライン」のほうがより一般向けに書かれている印象があります。

逆に言えば、「AED配置提言」のほうが詳細であるとも言えます。「AEDの適正配置に関するガイドライン」は厚生労働省からも発表されており、こちらのほうが一般向けのAED設置に関する公的な基準として扱われていますが、本サイトではより詳細な「AED配置提言」の解説を行なっていきます。

「AED配置提言」と「AEDの適正配置に関するガイドライン」は両方とも、日本心臓財団HPで閲覧できます。

AED設置基準の条件/日本心臓財団

提言の具体的な内容

「AED配置提言」では様々な提言・勧告がなされていますが、有用度に応じて以下のような勧告のクラス分けがなされています。

勧告クラス分類

クラスI:手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致しているもの
クラスII:手技・治療の有用性・有効性に関するエビデンスまたは見解が一致していない場合がある.
 クラスIIa:エビデンス・見解から有用・有効である可能性が高い.
 クラスIIb:エビデンス・見解により有用性・有効性がそれほど確立されていない.
クラスIII:手技・治療が有用・有効ではなく,ときに有害となる可能性が証明されているか,あるいはその見解が広く一致している.

これらの分類のうち、「AED配置提言」ではクラスⅠとⅡaのみが勧告されています。客観的に有効性が証明されているか(クラスⅠ)、有効である可能性が高いもの(クラスⅡa)しか勧告されていないということです。

そして勧告の内容は大きなくくりで分けると以下の4つになります。

  1. AEDの設置が勧められる場所
  2. 施設内でのAED設置方法
  3. AEDの配備が求められる状況
  4. その他

このくくりに沿って、以下で勧告の内容を見ていきましょう。

AEDの設置が勧められる場所

「どのような場所にAEDを設置すべきなのか?」というのはAEDの配備に関しては一番重要なポイントです。

「AED配置提言」では以下の5つをポイントとしてあげています。

AED設置にあたって考慮すべきこと

  1. 心停止の発生頻度が高い(人が多い,ハイリスクな人が多い)
  2. 心停止のリスクがある(心臓震盪のリスクがある球場,マラソンなどリスクの高いスポーツが行われる競技場など)
  3. 目撃される可能性が高い(人が多い,視界がよい)
  4. 救助を得やすい(救助の担い手となる人が多い)
  5. 救急隊到着までに時間を要する(旅客機,遠隔地,離島など)

心停止のリスクが高い場所というのは当然ですが、目撃されやすい場所、救助を得やすい場所であることは重要です。目撃者(救助する人)がいることが心肺蘇生が可能な前提条件だからです。

こうした条件は効果と効率性を重視した観点からのもですが、一方で救急隊や病院などの通常の医療サービスを受けにくい場所にも公平にAEDを配置すべきだとされています。

こうしたポイントをもとにして「AEDの設置が勧められる場所」に関しては以下のような勧告がなされています。

クラスⅠ
AEDの設置が勧めらる施設の性質

  • 5年に1度以上の心停止が想定される
  • 常に成人が250名以上いる(会社を含む)

AEDの設置が勧めらる施設の具体例

  • 空港・飛行機内
  • 小学校以上のすべての学校
  • 球技・ランニングが行われる施設(スポーツアリーナ、ジム、ゴルフ場など)
  • 若年層が心臓震盪の可能性がある競技(野球、サッカー、空手)を行う施設へのAED設置
  • ショッピングモールなどの大型の集客施設
  • パチンコ店、競馬場、競艇場、オートレース場などの遊興施設
  • 長期療養施設や診療所、透析センターなどの小規模な医療施設
  • 公衆浴場、温泉施設

その他

  • 駅職員への救命処置の周到な訓練
  • 学校教職員だけでなく生徒への心肺蘇生法とAEDの訓練
  • 規模な大きな学校での複数台のAED設置

クラスⅡa

  • コンビニやガソリンスタンド、交番や消防団の詰所へのAED設置
  • バスやタクシー、宅配トラックへのAED設置
  • 近くに医療施設がなく、救急搬送に時間がかかる僻地へのAED設置
  • 大規模なアパートやマンションへのAED設置

5年に1度・成人250人の常在が基準

クラスⅠでAEDの設置が勧められる施設の基準は「5年に1度以上の心停止が想定される」「常に成人が250名以上いる」の2点です。具体的には駅やショッピングモールなど大型施設が挙げられています。

また若年層のスポーツではボールなどが胸に当たって心室細動に陥る心臓震盪が発生しやすいことや、肩まで湯に浸かる入浴は心臓に負担がかかることなどが考慮されて、スポーツ施設や公衆浴場への設置も勧められています。

GAAM / Pixabay

コンビニや交番、バスなどの地域のインフラへの配備もクラスⅡaの分類で勧められています。

実は心停止の約70%は自宅で起こっていると言われていますが、「AED配置提言」では自宅へのAED設置は勧められていません。それは自宅での心停止を家族らが目撃する確率が意外に低いからです。しかし、人口密度の高い集合住宅の場合には有効という研究があるので、クラスⅡaの分類で大規模なアパートやマンションへの設置を勧めています。

施設内でのAED設置方法

「施設内でどのようにAEDを配置しているのか?」という点も救命率の向上には重要です。「AED配置提言」では以下のように勧告されています。

クラスⅠ
心停止から5分以内に除細動が可能な配置

  • 現場から片道1分以内の密度
  • エレベーターや階段の近くへの配置
  • 広い施設では自転車やバイクを活用した時間短縮

クラスⅠ以外

  • 入り口付近などわかりやすい場所
  • 誰もがアクセスできる(鍵をかけない、ガードマンなどが常に使用できる体制など)
  • リスクの高い場所(学校の体育館など)の近くへの配置
  • AED設置場所の周知(案内図内での配置場所表示や、設置場所への誘導表示など)

5分以内の除細動が可能なAEDの配置

心停止から除細動までの時間が1分伸びるごとに社会復帰率は約10%低下すると言われています。「AED配置提言」では心停止発生から長くても5分以内にAEDによる除細動が可能な体制が必要であるとされています。

ただし目撃後に除細動が行われるまでにはいくつかの手順を経る必要があります。目撃後、傷病者の状態を確認してAEDの必要性を認識するのに2分、AED到着後に除細動を行うまでの準備に1分が費やされるとすれば、AEDは往復2分、片道1分以内の場所に設置する必要があります。

移動を時速9kmの速歩きとすると片道1分の距離は150mになり、直線距離にすると300m間隔になります。ただし距離はあくまでも目安として、実際に5分以内の除細動が可能か、現地でシミュレーションして設置場所を決めることが大切です。

そのほかにも階段やエレベーターの近くに配置すること、広い工場やゴルフ場ではバイクやバギーを利用することなどが提言されています。

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AEDの配備が求められる状況

AEDを常設する場合の他にも、AEDが必要な状況については以下のように勧告されています。

クラスⅠ

  • マラソン大会など突然死のリスクがあり,かつ,広範なエリアで競技を行うもの
  • 心臓震盪のリスクを伴うスポーツを行う少年スポーツ団体

クラスⅡa

  • 心臓突然死のハイリスク者の周囲

激しい運動を行うと心臓突然死のリスクが高まると言われています。特にマラソンやジョギングは起こりやすい種目の筆頭です。最近では大規模なマラソン大会が開催されるようになっているので、これらのイベントにはAEDを配備しておく必要があります。また、広範囲なコース全体をカバーできる体制にすることも重要です。

若者のスポーツ中の突然死の20%は心臓振盪が原因だとされています。少年スポーツはAEDが常備されていない施設で行われることが多いので、AEDを携帯するなどの対策が必要です。

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自宅での心停止は目撃されることが少ないと前述しましたが、そうした場合の医学的な対処法がICD(植込み型除細動器)の体内への植込みです。これなら目撃される必要もなく、心停止が起こると機械が自動的に除細動を行ってくれます。

しかし、心臓突然死のリスクがあるのに、何らかの理由でICDの植込みができない人もいます。そんな場合には、周囲に救助者がいるという条件で自宅などへのAED配備を考慮してもいいと勧告されています。

その他の勧告

AEDの設置以外に関しては以下のような勧告がなされています。

クラスⅠ

  • 講習会を積極的に展開して、AEDを用いた心配蘇生を行える人を増やす

当然ですが、AEDを用いた心配蘇生が行える人の絶対数が増えれば、救命率の向上が期待できます。

従来の救命講習では講習時間が長時間に及ぶことや資材が高価なことが心肺蘇生法の普及の障害になっていました。しかし最近の人工呼吸を省略した手法の確立によって、救命講習の実施コストが抑えられるようになっています。

行政の資金援助

勧告という形ではありませんが、行政の資金援助についても触れられています。

日本のAED普及は、一般市民による除細動の認可も、実際のAEDの設置も、全て民間が主体となって行われてきました。いわば民間の善意によってなされてきたわけですが、国民の健康を守るという観点からは行政にも普及への責務と財政的な負担が求められると考えられます。

具体的には行政による公共施設への設置、民間施設への設置の促進・義務化、設置・維持の資金援助などが推奨されています。

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現在、日本では国の政策としては希薄ですが、都道府県市町村での資金援助や設置の義務化などは進んでいます。その背景には「AED配置提言」の指摘があるのかもしれません。

特に都市部ではAEDの配置は進んでいますが、地方では財政上の問題などから設置が進んでいない傾向があります。こうした問題には行政の支援が必要になるでしょう。

まとめ

以上、「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」でのAED設置基準をまとめてみました。

重要な勧告・基準としては「5年に1度以上の心停止が想定される」「常に成人が250名以上いる」場所・施設への設置、施設内での「心停止から5分以内に除細動が可能な配置」という3点が挙げられます。

前述したように、日本のAED普及は民間の善意によってなされています。そのため、人口の多い都市部や財政的に余裕のある施設へ集中的に設置されている傾向があります。

確かに救命される確率の高い場所に多くのAEDが設置されるのは重要なことですが、一方で救急搬送に時間かかる僻地こそ、市民による現地での心配蘇生が必要であることも事実です。

AEDの設置には金銭的な制約があることが多いですが、そうした場合こそ、予算内でできるだけ有効なAEDの設置ができるように「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」を参考にしていただければと思います。







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