AED導入の社会的意義

【AEDの歴史】一般市民がAEDを使用できるようになるまでの経緯

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今では医療従事者だけではなく一般市民も使用できるようになったAED。その歴史についてまとめてみました。

AEDの歴史は大きく以下の3つに分けることができます。

  1. AED開発の歴史
  2. アメリカでのAED普及の歴史
  3. 日本でのAED普及の歴史

これらについて以下で詳しくみていきましょう。

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AED開発の歴史

除細動器、そして自動体外式除細動器(AED)の開発は海外、主にアメリカを中心に行われました。

AEDが開発されるまでの歴史を年表にまとめると以下のようになります。

AED開発の歴史

1899年 スイスの動物実験で電気ショックにより心室細動が停止することが報告される
1947年 アメリカで電気ショックによる除細動が初めて人体へ行われる
1956年 アメリカで閉胸式除細動器が初めて臨床使用される
1965年 アイルランドで携帯型体外式除細動器が開発される
1967年 ロシアで二相性波形の除細動器が開発される
1978年 アメリカで初めて自動体外式除細動器が開発される

除細動器の開発から閉胸式(体外式)除細動器の登場まで

欧米での心室細動に関する研究は古く、1880年代にはすでに心室細動が突然死に関係しているという指摘がなされています。1899年にはスイスのジュネーブ大学で犬を用いた実験が行われ、電気ショックで心室細動を停止できたことが報告されています。

その後、電気ショックを用いた心室細動治療の研究は除細動器の開発という形をとり、アメリカとロシアを中心として続けられます。今日の病院で使用されている除細動器の原型は1930年代にアメリカのウィリアム・コウエンホーベン博士によって考案されました。1947年にはアメリカのクロード・ベック博士が電気ショックを14歳の少年に行い、人体への除細動を初めて成功させています。

クーロド・ベック博士が使用した除細動器/John Field, Wikimediaより

コウエンホーベン博士が考案した除細動器は手術で胸を切り開いて心臓に直接電極を取り付けるタイプ(開胸式除細動器)のもので、当時の除細動は胸を切開する手術でのみ可能でした。1950年代になると、体外の電極から心臓に電気ショックを与える研究がソビエト連邦のキルギスで行われ、手術で胸を切開しなくても除細動が可能な閉胸式除細動器の可能性が見出されました。その後、1956年にアメリカでポール・ゾール博士が臨床での閉胸式除細動器を用いた除細動を成功させています。

除細動器の携帯化・二相性・自動化

除細動器のさらなる飛躍は北アイルランドのフランク・パンリッジ博士によってなされました。1965年にパンリッジ博士は携帯可能な除細動器の開発に成功し、実際に現地の救急車に取り付けられるようになりました。これは病院外での心肺停止蘇生が可能になった救急医療の革新的な出来事でした。またパンリッジ博士は1965年には70kgだった携帯型除細動器の重量を、改良の結果1968年には3kgにすることに成功しています。

1967年にロシアでなされた除細動器の技術的な飛躍が二相性波形の開発です。それまでは2つの電極間を電流が常に一方向に流れる単相性が主流でした。二相性は約100分の2秒の間に電流の流れる向きを反転させる方式です。二相性は除細動に必要なエネルギーが単相性よりも少なく済むため、火傷や心筋損傷の危険性が低下し、除細動器の小型化も可能になりました。

Defib electrode placement

二相性の電極/ Owain Davies , Wikipediaより

現在のAEDに至る最後の技術革新が除細動器の自動化です。それ以前の除細動器はいわゆる手動除細動器で、使用者が除細動の必要性や、電気ショックのタイミング、電圧を自分で判断して使用するものでした。1978年にアメリカのアーチ・ディアック博士によって自動除細動器が開発されました。これは除細動の必要性やタイミングなどを除細動器自身が判断してくれるもので、これによって除細動器は医学的な専門知識を持たない一般市民でも使用できる形式となったのです。

AEDの「自動体外式除細動器」という少し堅苦しい名称も、こうした歴史を反映しています。胸を切開して使用する「開胸式」に対して皮膚に電極を取り付けるので「体外式(閉胸式)」、そして医療従事者用の「手動」ではなく、除細動器が各種の判断を行ってくれるので「自動」という語句がつくわけです。

アメリカでのAED普及の歴史

1978年に除細動器は市民が利用できる現在のAED(自動体外式除細動器)の形になりました。しかし、除細動器の形式が整うだけでは民間への普及はなされません。非医療従事者へのAEDの普及を促進させるには、組織の力が必要です。アメリカでその役割を果たしたのがアメリカ心臓協会(AHA)です。

アメリカでのAED普及の歴史

1994年 AHAが一般市民向けのAEDの開発を提唱する
1995年 AHAが一般市民によるAEDを用いた除細動(PAD)を推奨する
2000年 アメリカでクリントン政権がPADの普及を国策に制定する
2000年 国際蘇生ガイドライン2000でPADが推奨される
2001年 アメリカで全ての航空機へのAED配備が義務付けられる
2002年 FDAが家庭用AEDを認可する(ただし医師の処方箋が必要)

AHAはアメリカの患者支援団体で、心臓病や脳卒中の研究や啓蒙活動を行なっています。1974年には世界で初めて心配蘇生法のガイドラインを発表するなど、心配蘇生の分野ではアメリカのみならず世界規模で中心的な役割を果たしています。

AHAによるPAD促進のための会議

そのAHAが1994年にPADを促進させるための会議を主催しました。PADとは「public access defibrillator」または「public access defibrillation」の略で、公共の場で一般市民が使用できる除細動器、あるいは公共の場で一般市民が行う除細動のことです。1990年代のアメリカではすでにAEDが登場していましたが、それらはまだ主に救急隊や消防士の使用を想定しているものでした。心臓突然死を防ぐためには一般市民によるPADの促進が必要だと考えたAHAは、この会議に医療関係者だけではなく、AEDメーカーや科学者、FDA(アメリカ食品医薬品局)などの行政機関といった広い分野からの参加を促しました。

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この会議の結論として、AHAは各AEDメーカーに一般の人が使いやすいAEDの開発を促しています。それまでのAEDの設計はまだ専門家向けのものだったのですが、これを契機として現在の一般市民向けのAEDが開発されるようになりました。

またAHAは1995年には、心配蘇生の際には一般市民がAEDを用いて除細動を行うことを推奨しています。すでにAHAの蘇生ガイドラインは1974年以来改定を重ねられ、国際的な心肺蘇生法の基準と見なされていましたので、PADを心配蘇生の基準に組みこもうというAHAの意図が読み取れます。

アメリカ政府によるAED普及運動

こうした動き受けて、アメリカではクリントン政権が国の政策として一般市民による除細動を促進させることを決定しました。2000年にはAEDに関する法律が制定され、全国の連邦施設へのAED配備の義務化、地方自治体がAEDを購入し講習を開催するための費用2500万ドル(約28億円)の助成金の拠出などがなされました。これに先立ってクリントン大統領はラジオ演説の中でAEDの普及を国民に促しています。

さらに2000年には国際蘇生連絡協議会(ILCOR)から蘇生ガイドラインが発表され、その中でも一般市民によるAEDの使用が推奨されました。1992年に設立されたILCORはAHAの蘇生ガイドライン作成の事業を引き継ぎ、蘇生ガイドラインが心配蘇生の国際的な基準であるという点がより明確になりました。

2001年には連邦航空局(FAA)がPAD推進の動きに加わり、アメリカの全ての航空会社へ2005年までに国内便・国際便すべてにAEDを配備することを義務付けました。

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さらに2002年には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が初となる家庭用AEDを認可しています。FDAはアメリカの食品や医薬品、医療機器を監督する行政機関です。これによってアメリカで一般市民がAEDを購入できるようになりました。このときにはまだAEDの購入には医師の処方箋が必要でしたが、2004年には処方箋なしでも購入できるようになっています。

このようにアメリカでは2000年に国を挙げてPADを推進していくことになるのですが、そこにはAHAという強力な組織の尽力がありました。

日本でのAED普及の歴史

アメリカでPADの配備が進み、その成果が認められてくると日本でもPAD導入の機運が高まります。日本においてPAD推進の役割を担ったのが日本循環器学会などに属する医師たちです。

日本でのAED普及の歴史

1992年 救急救命士の半自動除細動器使用が認められる(ただし医師の直接指示が必要)
2001年 日本循環器学会にAED検討委員会が設置される
2001年 航空機内での客室乗務員のAED使用が認められる
2002年 高円宮殿下が運動中の心室細動により急逝される
2002年 AED検討委員会が厚生労働大臣あてに一般市民のAED使用に関する提言書を提出する
2003年 救急救命士による除細動処置に医師の指示が不要になる
2004年 一般市民のAED使用が認められる

客室乗務員へのAED使用解禁

日本では1992年に救急救命士の資格を持つ救急隊員に除細動器の使用が認められるようになりました。ただし、これには「医師の指示が必要」という条件があり、救急隊員だけの判断で除細動を行うことはできませんでした。除細動は原則として医師のみが行う医療行為にとどまっているという状況だったのです。

そんな中、アメリカでのPAD促進の運動が日本に直接的な影響を及ぼすことになります。旅客機へのAED配備の義務化です。前述のようにアメリカでは2001年に全ての旅客機にAEDの配備が義務付けられるようになりましたが、それがアメリカに乗り入れる国外の旅客機にも適用されるようになったのです。当然アメリカに向かう日本の航空会社にもAED配備が求められるようになりました。

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これを受けてJALが2001年10月、機内にAEDを搭載すると発表しました。しかし当時の日本の法律では医師以外の除細動は認められていません。JALが厚生労働省と協議した結果、厚生労働省により「機内に医師が不在の場合に限り」客室乗務員による除細動は医師法に抵触しないという判断が2001年12月になされました。

医師たちの奮闘で日本でもPAD解禁

厚生労働省の迅速な判断で日本の航空機はアメリカの空から締め出されることを免れました。しかし、このことは日本国内での矛盾を産むことになります。航空機の客室乗務員は医師の判断を待たずにAEDを使用できる一方で、訓練を積んだ救急救命士が除細動を行うには医師の指示が必要だという矛盾です。この矛盾の解消を足がかりに日本でも一般市民による除細動を実現しようとしていたのが、同じ2001年に日本循環器学会の中に設けられた「AED検討委員会」です。

「循環器学」とは心臓や血管を取り扱う分野とする医学のことです。心臓を専門とする医師たちが日本でも「一般市民による除細動」が認めらるように活動を始めたのです。その中心となったのが「AED検討委員会」の委員長を務めた三田村秀雄教授(当時、慶應義塾大学医学部教授)です。三田村先生は日本でAEDにいち早く注目した医師の一人です。すでに2000年には市民向けの公開講座でAEDを取り上げるなど、関心を持つだけでなく、早い段階からAEDの重要性を世間に発信していました。2003年にはAEDの必要性を訴えた下記の書籍も出版されています。

心臓突然死は救える/ 三田村秀雄

2002年、「AED検討委員会」はAEDの使用を一般市民にも解禁すべきだという内容の提言書を厚生労働大臣宛に提出しました。当初、厚生労働省の姿勢は慎重でしたが、三田村先生が中心となって何度も働きかけた結果、ついに2004年7月に一般市民のAED使用を認める通知が厚生労働省から出されました。実は2002年の提言書提出の直前に高円宮殿下がスカッシュのプレー中に心室細動で亡くなるという不幸がありました。様々なスポーツ支援活動に従事されていた高円宮殿下の急逝は各方面に衝撃を与え、この出来事が日本で心臓突然死とAEDの認知が広がるきっかけになったと言われています。

AEDの普及は民間主導で進められた

以上、除細動器の開発から、アメリカ・日本で「一般市民による除細動(PAD)」が解禁されるまでの歴史をまとめてみました。

一般市民のAED使用が認めらる過程で、日米ともに特徴的なのは、その運動を民間が主導したことです。アメリカではAHAが中心となって進め、日本では「AED検討委員会」が厚生労働省に働きかけました。どちらも政府の機関ではなく、医療に関わる民間の組織です。

従来の感染症が克服され、代わって生活習慣病が大きな弊害となっている現代では予防医学が重要だと言われています。病気になってから医者や病院に頼るのではなく、病気にならないように生活習慣をコントロールし、仮に病気になった場合でも早期発見・早期治療で病状の深刻が深刻になるのを防ぐという考えです。

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予防医学では市民が受け身ではなく、積極的に医療に関心を持ち、自らの健康を管理する姿勢が重要です。病院に搬送される前に心肺停止を即座に治療しようというPADは、まさに予防医学が唱える新しい医学の実践だといえるでしょう。それを政府主導ではなく、民間が主導して進めているというはとても心強いものです。

民間主導ということは、その運動は誰にでも開かれているということです。実際に日本でのAED普及には多くの民間団体が携わり、広く市民に心肺蘇生法の講習を受けることやAEDについての理解を深めることを呼びかけています。心臓突然死に関心のある人なら誰でも、講習会に参加したり、AEDに関心を持つことで、この運動に参加することができるのです。







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