多くの自治体などではAED普及のために、AED導入の補助金・助成金が用意されています。
こうした補助金を利用すれば、AED導入のネックとなる価格面での問題をクリアすることができます。AEDには公的なインフラという側面もあるため、補助金などは積極的に利用していきたいところです。
補助金は大きく分けて地方自治体のものとそれ以外のものとの2種類ありますが、そうした補助金の情報を集めてみました。
目次
補助金の現状。国、厚生労働省は補助金を設けているのか?
AEDの適切な配置への提言である「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」には、民間のAED導入には行政の援助も必要であるという考えが示されています。
(市民による除細動は)国民の健康を守る医療行為の一部を、市民、医療施設以外の施設に委ねるものであり、AEDの設置・運営にあたって、一定の基準を満たすものについては、民間の善意に頼るだけでなく、行政が一定の責務、財政上の負担を負うべきものと考える。
日本循環器学会AED検討委員会・日本心臓財団
「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」
確かにAEDは不特定多数の人のために設置されることになるので、公共のインフラだとも言えます。価格の高いAEDの設置には、民間だけではなく行政も負担すべきだというのはもっともな意見です。
では、実際の行政の支援はどうなっているのでしょうか?
残念ながら、現状では国や厚生労働省のレベルではAED導入に対する補助金は設けられていないようです。AEDの補助金の主体となっているのは地方自治体や財団というのが実情です。
地方自治体の補助金も都道府県のレベルではなく、市区町村のレベルで設けられているのがほとんどです。
これにはAEDの設置は各地域単位で進めるべきもので、行政の中央で取り扱うべきではないという判断があるようです。国や厚生労働省が直接、補助金を設けていないのも、こうした判断によるものなのでしょう。
ただし、厚生労働省は都道府県が行うAED普及のための啓蒙活動に対しては毎年予算を確保しているようです。
補助金の内容と注意点
このようにAEDの補助金は各地方単位で設けられていることが多いので、補助の内容もそれぞれ異なります。しかし傾向としては以下のようなものが多くなります。
- 補助金額は初期費用の1/2が多い
- さらに補助金額には上限が設けられている
- 対象は購入のみで、リースやレンタルが不可のものがほとんど
- AEDの保守・管理が求められる
- 年度ごとの募集になることが多い
補助金額は1/3〜全額の範囲で、1/2というのがもっとも多くなります。また割合とは別に10万円や20万円といった上限を設けられていることがほとんどです。
補助の対象はAEDの購入に対してで、レンタルやリースは対象にならない場合がほとんどです。
補助の条件として、AEDの点検保守を課せられることが多いのも特徴です。これは補助なしで導入する場合でも当然のことですが、公的な資金で導入されるとより公共性が増してくるということでしょう。
補助金は永続的に設けられているところもありますが、年度ごとに募集を区切っている方が割合としては多くなります。自治体の補助金は特にそうで、これは自治体の予算が年度単位で決められるので仕方がありません。
仮に今年度の募集が打ち切られていても、来年度に同様の募集がある可能性があります。
また補助金全体の予算上限が決められるている場合もあります。募集期間内でも予算がなくならないうちに、できるだけ早く申請するほうがいいでしょう。
防災設備の補助金も利用できる
AEDの導入にはAEDのみを対象とした補助金だけではなく、防災設備や地域振興を目的とした設備を対象とした補助金も利用することができます。
特に防災設備の補助金は多くの自治体で設けられています。
補助金の要綱にAEDと記載されていなくても対象となることがあるので、AEDのみ以外の補助金も探してみましょう。
地方自治体等の補助金
補助金は大きく分けると地方自治体を中心とした地域限定のものと、全国を対象としたものとに分けられます。
以下はネットに情報が載っている地方自治体等の補助金データです。
東京都・神奈川県・愛知県・兵庫県が特に多いようです。兵庫県が多いのはおそらく阪神淡路大震災の影響でしょう。
*以下の情報は2018年7月時点のものです。詳細については各対象窓口にお問い合わせください。
北海道
北海道コンピュータ関連産業健康保険組合
対象:同組合の加入者
金額:3分の2
山形県
長井市(自主防災組織の防災資機材整備補助金)
対象:自主防災組織
金額:2分の1(上限20万円)
尾花沢市(自動体外式除細動器集落設置推進事業費補助金)
対象:自主防災組織など
金額:3分の2(上限20万円)
天童市
対象:町内会などが運営する自治公民館
金額:4分の1
窓口:各天童市立公民館
上山市(自治総合センターのコミュニティ助成事業)
対象:自主防災組織
金額:上限200万円
自治総合センターの助成金を上山市を通じて申請することができます。
西川町(AED設置事業補助金)
金額:2分の1(上限13万5千円)
宮城県
宮城県バス協会(AED購入補助事業)
対象:バス事業者(非会員事業者も申請可能)
金額:5万円(1事業者1台限定)
新潟県
新潟市(地域活動補助金)
金額:2分の1(上限15万円)
平成30年度から地域活動補助金に統合
新発田市
対象:自治会など
金額:2分の1(上限20万円)
栃木県
日光市
対象:日光市内の民間保育所など
金額:AED1台を無料で1年間貸与
群馬県
太田市
対象:自治会など
金額:2分の1(上限10万円)
補助金要綱はこちら
埼玉県
草加八潮消防組合
対象:草加市内の私立幼稚園・民間保育所
金額:2分の1(上限15万円)
東京都
大田区(24時間AED設置補助事業)
対象:区内の民間団体など
金額:3分の2(上限46万6千円)
条件:24時間だれでも使える状態で設置すること
豊島区(老人福祉施設等24時間AED設置補助事業)
対象:区内の老人福祉施設など
金額:3分の2(上限45万円)
荒川区(災害時地域貢献建築物の認定・助成制度)
対象:災害時に近隣住民の一時避難先となる建物の防災設備
金額:2分の1(上限50万円)
足立区(商店街補助事業)
対象:商店街
金額:10割
まちみらい千代田(千代田区の外郭団体)
対象:千代田区内のマンション
金額:千代田区による無償貸与
東京都中小企業振興公社(BCP実践促進助成金)
東京都中小企業振興公社は東京都の中小企業を支援する公社で、BCPを実践する企業にその経費を助成する制度を設けいています。BCPとは「事業継続計画」のことで、自然災害などに見舞わられても事業を継続できるようにあらかじめ策定する計画のことです。
対象:事業継続計画(BCP)を実践できる東京都内の中小企業
金額:2分の1(上限1500万円)
神奈川県
川崎市(自主防災組織防災資器材購入補助金交付制度)
対象:自主防災組織
金額:2分の1(上限は参加世帯数による)
横浜市(町の防災組織活動費補助金)
対象:自治会など
金額:申請世帯数×160円
相模原市(AED使用可能施設登録制度)
対象:設置を登録申請したAED
金額:AEDを使用した場合の電極パッド交換費用
静岡県
静岡県共同募金会(赤い羽根共同募金)
対象:静岡県内の福祉事業団体など
金額:90%など助成メニューによる
愛知県
安城市(町内会等補助金)
対象:町内会など
金額:2分の1(上限25万円)
名古屋市(商店街魅力アップ支援事業)
対象:商店街・商工会など
金額:15〜40%(上限100〜500万円)
春日井市(春日井市私立保育園等AED設置補助金)
対象:私立保育園など
金額:2分の1(上限15万円)
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稲沢市(消防施設等補助制度)
対象:自主防災会
金額:3分の1(上限10万円)
福井県
福井市(防災資機材購入補助金)
対象:市内の各地区自主防災組織連絡協議会
金額:2分の1(上限20万円)
滋賀県
草津市(自主防災の補助)
対象:町内会
金額:2分の1(上限20万円)
大津市(大津市民間保育所自動体外式除細動器設置補助金)
対象:保育所など
金額:2分の1(上限6万5千円)
大阪府
富田林市(地区集会所整備補助制度)
対象:地区集会所
金額:3分の2(上限30万円)
泉南市(自治総合センターのコミュニティ助成事業)
対象:自主防災組織
金額:上限200万円
自治総合センターの助成金を上山市を通じて申請することができます。
兵庫県
三木市
対象:自治会集会所
金額:3分の1(上限10万円)
多可町(自主防災組織支援事業助成金)
対象:自治会
金額:上限10万円
西脇市
対象:自治会
金額:2分の1(上限:購入10万円、リース年間2万円)
バッテリー、電極パッドのみも対象
播磨町
対象:自治会
金額:10分の8(上限24万円)
川西市
対象:自治会
金額:上限5万円
岡山県
岡山市(岡山市私立特定教育・保育施設AED設置促進事業補助金)
対象:市内の私立特定教育・保育施設
金額:上限30万円
補助金要綱はこちら
美咲町(自主防災組織避難訓練等支援事業補助金)
対象:自主防災組織
金額:3分の2(上限20万円)
福岡県
春日市
対象:自治会
金額:3分の2(上限25万円)
佐賀県
嬉野市
対象:宿泊施設、自治公民館、福祉施設、幼稚園など
金額:2分の1(上限15万5千円)
沖縄県
宜野湾市
対象:宜野湾市消防本部のAEDマップに登録されたAED
金額:AEDを使用した場合、電極パッドを現物支給
自治体以外の補助金
地方自治体以外にも財団などがAED導入に対する補助金や助成金を設けています。
対象はスポーツ事業や福祉事業などと事業内容が限定されることが多いですが、その分、地域に限定されないものになります。
*以下の情報は2018年7月時点のものです。詳細については各対象窓口にお問い合わせください。
日本スポーツ振興センター(スポーツ振興くじ助成)
totoやBIGなどのスポーツくじの収益を財源として、スポーツ振興の助成事業が行われています。常設の設備としてや大会運営経費の一部としてAEDの補助を申請できます。
対象:地方自治体、スポーツ団体
金額:経費総額の30%
あんしん財団
中小企業向けに保険や補助金、福利厚生サービスを行っている共済団体です。従業員一人当たり月額2,000円の会費がかかりますが、業務上のケガや災害に対する様々な保険や補助金を活用できます。
対象:加入している中小企業
金額:2分の1(上限は従業員数などに応じて最大21万円)
自治総合センター(宝くじコミュニティ助成事業)
宝くじの収益の一部を用いた公的な助成です。対象が自治体から自治会まで幅広く、総助成金額の規模が大きいのも特徴です(平成30年度実績で約55億円)。
対象:市区町村、自治会、自主防災組織など
金額:上限200万円(ただし助成事業内容によって変わる)
丸紅基金
丸紅が設立した福祉事業向けの助成団体です。毎年の合計助成額は1億円になります。
対象:民間の社会福祉事業団体
金額:上限200万円
大友福祉振興財団
障がい者支援や奨学金支給を行っている財団です。過去にAEDの助成実績があります。
対象:障害者支援施設など
東京都住宅供給公社(JKK東京)
公社賃貸住宅事業を行なっている公社です。
対象:公社住宅の自主防災組織
期限:2023年3月31日まで
リースやレンタルは対象外が多い
前述したように、AED導入に対する補助金はリースやレンタルを対象にしていないことが多いです。ですから、補助金を利用する場合には、必ず購入での導入計画や見積もりを用意しておきましょう。
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本命はレンタルであっても、補助金が利用できる可能性があるのなら、別に購入でも導入できる用意をしておくべきです。
リースやレンタルを選ぶ理由は費用の平準化がほとんどのはずですから、補助金が受けられるなら、費用面での問題が大幅に解決されるからです。
また、レンタルは選ぶ別の理由に「管理を委託できる」というものもありますが、ほとんどの補助金では、補助を受ける側の義務としてAEDを保守・管理することが求められます。管理する意識が希薄になるという理由で、レンタルは補助の対象にされていないのかもしれません。
補助金を利用して複数台を導入
補助金を利用できれば、金銭的な負担はかなり軽くなります。
もし、コストの関係で当初の計画から導入台数を減らしたのなら、補助金を利用することで導入台数を増やせる可能性も出てきます。施設の動線が長くなるほど、適切な設置台数は増えていきます。
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AEDの効果的な配置とは?AED設置基準ガイドラインを解説
2004年に一般市民による除細動が認められて以来、日本国内ではAEDの設置が急速に進んでいきました。しかし個々の民間組織によってバラバラに設置が進んだ結果、全体としては効果的なAED配置がなされていな ...
補助金を利用しつつ、さらに購入単価を抑える工夫ができれば、導入可能な台数はさらに増えることになります。
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【購入前に要確認】AEDの価格を抑えて購入する方法とは?
AEDを導入するにあたって、多くの人が悩んでいるのがその価格です。 AEDの価格は一台およそ20〜30万円。購入するには慎重にならざるを得ない価格です。 逆に言えば、価格面さえクリアできれば、AEDの ...
AEDは設置してあったけれども、設置場所が遠かったために救命できなかった事例もあります。補助金を利用できたなら、それでもう1台AEDを設置できないか、考えてみましょう。
まずは市区町村に補助金を確認してみよう
AEDは設置している施設の関係者だけではなく、地域住民や偶然立ち寄った人も利用する可能性があります。その点でAEDは公共性の高い設備であると言えます。AEDの導入に補助金を設けている自治体の意図もこの点にあるはずです。
ですからAEDの導入には積極的に補助金を利用すべきです。たとえ補助金なしで導入できそうでも、補助金を利用すればもう1台導入できるかもしれません。そうすればその地域に1台AEDが増えることになり、それは公共の利益になります。
まずは属する市区町村の補助金を確認してみましょう。HPなどに記載されていなくても、補助金は設けられている場合もあるので、電話などで直接問い合わせてみることをおすすめします。
運悪く市区町村が補助金を設けていない場合でも、全国を対象とした「自治体以外の補助金」を検討してみましょう。
特に自治総合センターのコミュニティ助成事業は総助成金額の規模がかなり大きく、助成対象の幅も広いのでおすすめです。この助成金でAEDを導入している市区町村も多いので、この助成金を利用するように市区町村に働きかけるのも有効かもしれません。