AEDの正式名称は「自動体外式除細動器」といいます。
なんだか堅苦しい名称ですが、この名称にはAED開発の歴史や、一般市民が使用できるようになった経緯などが反映されています。
些細なことかもしれませんが、こうした名称の意味を知ることで、AEDと心肺蘇生への理解が深まります。
以下では、AEDの正式名称とその意味について、まとめてみました。
AEDの正式名称
AEDの正式名称は Automated External Defibrillator で、「オートメイティッド エクスターナル デフィブリレイター」と読みます。
AEDはこの3語の頭文字をとった略称ですが、こちらの方が一般的な名称として広まっています。
Automated External Defibrillator の日本語訳は「自動体外式除細動器」で、Automated が「自動」、External が「体外式」、Defibrillator が「除細動器」にそれぞれ対応しています。
「自動」「体外式」「除細動器」のそれぞれの意味を以下でみていきましょう。
除細動器とは?
「除細動器」とはまさしく除細動を行う医療機器のことです。
「除細動」自体が聞き慣れない言葉ですが、心臓のポンプ機能が乱れる不整脈を治療する医療行為の一つです。除細動のことを英語では「Defibrillation」といい、除細動器は「Defibrillator」といいます。
不整脈とは?
不整脈とは心拍数やリズムが乱れて、心臓が血液を正常に送り出せなくなっている状態のことです。絶えず心臓が血液を全身に送り出して循環させていることで、人間は生命を維持することができています。この血液の流れが止まってしまうと、5秒で意識不明、10秒で呼吸停止となり、死に至ってしまいます。
ドラマや映画などで心肺停止になった患者に医師が電気ショックを行なっている場面がよくありますが、あの電気ショックを行なっている行為が「除細動」、電気ショックを与える医療機器が「除細動器」なのです。
不整脈は軽度であれば、動機や息切れ程度の症状で済みますが、重い場合は心肺停止に陥ります。
重度の不整脈には、心臓の心室が細かく震える心室細動や、逆に拍動のリズムが速すぎる心室頻拍などがありますが、心肺停止の原因となっているのは心室細動が一番多いと言われています。
除細動器は心臓に電気ショックを与えることで、心室細動などの異常な拍動を強制的に中止させ、正常な拍動に戻す働きがあります。心臓は電気的な信号で動いているので、電気ショックで働きを強制的に止めることが可能なのです。
除細動器の種類
除細動器はAEDだけではなく、他にも種類があります。
除細動器
病院などで一般的に使用される医療機器です。
ドラマや映画で医師が使用しているのはこれに当たります。
植え込み型除細動器(ICD:Implantable Cardioverter Defibrillator)
手術によって体内に植え込む形の除細動器です。
ペースメーカーとの違いは、ペースメーカーの働きが心臓に電気信号を送ることで拍動をサポートすることなのに対して、ICDの主な機能は心臓が停止した場合に自動的に除細動を行うことにあります。
心停止になる可能性が高い心臓疾患の治療法の一環として選択されます。
着用型自動除細動器(WCD:Wearable Cardiac Defibrillator)
ベストと一体型の除細動器で、着衣することで不整脈を自動的に感知して、心停止の際には自動的に除細動を行います。
主にICDの植え込み手術までの期間に着用されます。
これらの除細動器は医師のみが取り扱える医療機器です。それに対して、AEDは一般市民が使用することを目的として作られています。
AEDの「自動体外式除細動器」という正式名称には「医師が使用する本来の除細動器とは異なること」というニュアンスがあります。
「体外式」にはどのような意味があるのか?
AEDの「体外式」という言葉には「電極パッドを肌に貼り付けることで除細動を行える」という意味があります。
開発当初の除細動器は電極パッドを肌に貼り付ける方式ではなく、手術で胸を切り開いて、心臓に直接電極を取り付ける必要がありました。この手術で胸を切り開くタイプの除細動器は「開胸式除細動器」と呼ばれ、1930年代にアメリカで考案されました。
これに対して、現在の手術の必要がない除細動器は閉胸式(体外式)と呼ばれていて、1950年代に開発されたものです。
「体外式」という言葉には、除細動器の改良の過程が反映されているわけです。
AEDが「自動」である理由
AEDの「自動」という言葉には「医学的な知識のない一般市民でも使用できるように除細動器自体が自動で除細動を行う」という意味があります。
「自動」ではない除細動器とは、医師が使用する本来の除細動器のことで、「自動式」と区別する場合には「手動式」と呼ばれます。
医師が使用する除細動器は「除細動が必要かどうか」「電気ショックのタイミング」「電気ショックのエネルギーの大きさ」などが医師の判断で調整できるようになっています。
しかし、一般市民には医師のような判断を行うことは不可能です。
そのため、除細動器自体が心電図を解析して、「除細動が必要かどうか」「電気ショックのタイミングや大きさ」を調整できる「自動除細動器」が1970年代にアメリカで開発されました。
この自動除細動器の登場によって一般市民による除細動が可能になり、現在のPAD(Public Access Defibrillation、一般市民による除細動)普及のきっかけになったのです。
AEDの開発から一般市民が使用できるまでの歴史・経緯については下記の記事で解説しています。
関連記事【AEDの歴史】一般市民がAEDを使用できるようになるまでの経緯
AEDの使用方法
「自動」という言葉がついていることが示すようにAEDの使用方法は、操作方法を知らない人でも使用できるようにシンプルになっています。また、使用方法は音声や液晶画面上の文字でAED自体が指示してくれるようになっています。
AEDを使用する上で人が行う必要があるのは、
- 電源を入れる
- 電極パッドを傷病者に貼る
- 電気ショックのボタンを押す
の3つです。
「除細動が必要かどうか」
「除細動のタイミング」
などはAEDが自動で判断してくれます。
心肺蘇生にはAEDと胸骨圧迫が必要
AEDの正式名称には、除細動器の開発の歴史と、一般市民による除細動が可能になった経緯が反映されています。
しかし、AEDだけでは心肺蘇生を十分行えない場合もあります。
AEDが用意できるまでの間や、AEDを使用しても蘇生できなかった場合には、傷病者の生命を維持する(血液の循環を維持する)ためには胸骨圧迫を中心とした一次救命処置(BLS)が必要です。
関連記事AEDの機能とは?心肺蘇生法(一次救命処置:BLS)の手順も紹介
一次救命処置については救命講習を受講することで、習得することができます。
万が一の場合にAEDを有効に使用できるように、一次救命処置もぜひ習得しておきましょう。