AEDと心肺蘇生の基礎知識

AEDの使い方に関する疑問。女性のブラジャーは外すべきか?

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AEDを使用する際には傷病者の衣類を脱がせる必要がありますが、「傷病者が女性の場合はどうすればいいのか?」という議論がネット上で度々なされています。

人命救助のためにはやむをえないのか?個人の尊厳を配慮するべきなのか?

一般市民にとっては非常に気になる問題ですので、法令上問題ないのか、マニュアル上はどうなっているのか、調べてみました。

DanaTentis / Pixabay

女性へのAED使用に関するデマ

AEDの女性への使用に関して、2017年に下記のようなツイートがネット上で話題になりました。

AEDを使用する際服を脱がすわけですが、社内アンケートの結果「男性にされたらセクハラで訴える」という女性社員が多かったため、女性社員が倒れていたときの救助活動一切を女性にさせ、男性しかいないときは女性を呼び出すか、契約書に本人の署名をしてもらってから救助する。という会社に遭遇した。

柊 真冬(あーくん) (@arekun333)

このツイートの内容はデマカセだったようで、ツイートした本人が後に謝罪しています。

このツイートが話題になることからもわかるように、一般人からするとAEDの女性への使用はセンシティブな問題です。

女性側には救助の際に胸を見られることを心配する声があり、男性側には救助の際に胸をはだけさせることに躊躇する意見があります。

女性の胸を露出させても法的に問題ないのか?

「AEDを使用する際に女性の胸を露出させることは法的に問題にならないか?」という点は、下記の記事でも取り上げたように、刑法上の緊急避難にあたり罰則の対象とならないと解釈されています。

関連記事AEDに関する様々な疑問を解説。救命時に女性の胸を露出させていいのか等

そもそも、2004年にAEDの使用が一般市民に解禁された(医師法に違反しない)決定自体に「やむをえない場合には、一般市民が傷病者の胸をはだけさせてAEDを使用しても法に触れない」という内容が盛り込まれているという解釈も成り立ちます。

2004年のAED一般市民解禁に先立って厚生労働省は有識者による検討会を設置していますが、その報告書には下記のように、「一般市民による除細動の実施には、医師法違反以外の刑事・民事の責任も免責されるべきである」という見解が盛り込まれています。

(前略)救命の現場に居合わせた一般市民が自動体外式除細動器を用いることは一般的に反復継続性が認められず、医師法違反にはならないものと考えられる。医師法違反の問題に限らず、刑事・民事の責任についても、人命救助の観点からやむを得ず行った場合には、関係法令の規定に照らし、免責されるべきであろう。

当検討会が示す条件は「法違反に問われない」、「損害賠償責任を問われない」という、言わば消極的な安心感を与えるものにとどまらず、医学的知識を含め救命についての理解に立って、自信を持って救命に積極的に取り組むことを促すものであるべきである。

引用元:非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書

AEDを使用するために女性の衣類を脱がせるという行為も、上記の「法違反に問われない」内容に含まれていると考えていいでしょう。

マニュアル・原則上はどうなっているのか?

法的には問題なくても、実際はどうすればいいのか?という問題が残ります。

実際に女性にAEDを使用する際には、ブラジャーを外すことが焦点になってきます。

実は一般市民向けのマニュアルでは、「ブラジャーを外さないといけない」という見解のものと、「必ずしもブラジャーは外さなくてもいい」という見解のものが両方あります。

「ブラジャーを外さないといけない」という見解なのは日本医師会作成の『救急蘇生法の指針2015 市民用・解説編』で、「必ずしもブラジャーは外さなくてもいい」という見解なのは日本AED財団の減らせ突然死プロジェクトです。

「ブラジャーは外さなければいけない」という見解

「救急蘇生法の指針」は日本医師会が作成した一般市民向けの心肺蘇生法のマニュアルです。

厚生労働省のHPでも記載されていることからもわかるように、日本での市民向け心肺蘇生法の基本的なマニュアルであると位置づけられています。

救急医療/厚生労働省

その詳細版である『救急蘇生法の指針2015 市民用・解説編』では、傷病者の胸を露出させてもいいのかという質問には下記のように回答されています。

Q:公衆の面前で傷病者の胸をはだけてもよいのか?

A:心配蘇生は衣服をつけたままでも可能であるが、AEDのパッドを貼るさいには、必ず傷病者の胸をはだけなければいけない。公衆の面前であっても救命のためにはやむをえないが、できるだけ人目にさらさないような配慮が望まれる。

『救急蘇生法の指針2015 市民用・解説編』61項

直接「ブラジャーは外さないといけない」とは書かれていませんが、「必ず胸をはだけなければならない」とあるので、当然ブラジャーを外さなければいけないということになります。

「必ずしもブラジャーを外さなくてもいい」という見解

一方、「必ずしもブラジャーを外さなくてもいい」という見解なのが、日本AED財団の減らせ突然死プロジェクトです。

 

日本AED財団はAEDの普及を推進する民間の組織ですが、高円宮妃が名誉総裁、一般市民へのAED解禁に尽力された三田村秀雄先生が理事長を務められています。国内のAEDメーカーのほとんどが協賛もしており、AED普及のオールジャパンといった感じの組織です。

日本AED財団

その日本AED財団の減らせ突然死プロジェクトのHPでは、AEDの女性への使用について下記のように記載してます。

Q9: AEDを女性に使用する場合、下着や胸の露出への配慮はどうすればいいですか?

A:AEDのパッドを素肌に直接貼り付けることができていれば、ブラジャーは外す必要はありません。余裕があれば、AED のパッドを貼った後に、上から上着やタオルなどを掛けてください。重要なことは、電気ショックの時間を遅らせないことですので、そのことを忘れずに、可能な範囲で倒れている人に配慮をしてあげてください。

よくあるご質問/減らせ突然死プロジェクト

AEDのパッドはブラジャーを外さなくても貼り付けられる場合があるので、その場合はブラジャーは外さなくてもいいという見解です。

ただし「AED のパッドを素肌に直接貼り付けることができていれば」という前提があるので、ブラジャーをつけたままで貼るのが難しければ外さなくてはいけません。

しかし「必ず傷病者の胸をはだけなければいけない」という救急蘇生法の指針の見解と比べると、女性に配慮した柔軟な指針です。

二つの見解の違い

なぜ救急蘇生法の指針とAED財団では、ブラジャーの着脱について見解が異なってるのでしょうか?

その理由は両者のスタンスの違いにあると言えます。

救急蘇生法の指針は、日本医師会が作成した市民向けの救急蘇生法の骨子です。国のスタンダードである以上、曖昧さの少ない原則であることが求められます。

そのため、ケースごとに判断する余地を残すのではなく「AEDのパッドを貼る際には必ず胸をはだける」ことを原則として採用しているのです。

一方、AED財団の役割は、心配蘇生の原則を確立することではなく、実際に心肺蘇生法とAEDを普及させていくことです。

このために、女性にも男性にも抵抗を与える「必ずブラジャーを外す」ではなく、受け入れやすい「必ずしも外さなくてもいい」という見解を採用していると考えられます。

実際にはどうすればいいのか?

実際にAEDを使用する際には、どちらの原則に従うべきでしょうか?

どちらも間違っていないので、どちらを採用しても問題ないはずです。

しかし、一般市民としては、やはり公衆の面前で女性の胸を露出させることには抵抗を感じてしまうので、「必ずしもブラジャーを外さなくてもいい」を採用すればいいでしょう。

ただし、「直接肌にパッドを貼れる」場合のみです。

ブラジャーをつけたままではうまく貼れないときはブラジャーを外して貼るべきです。

優先すべきは、一刻も早く除細動することなので、「外さない方と外す方とどちらが早くパッドを貼れるか」を基準に判断しましょう。

手順をまとめると下記のようになります。

  1. 衣類は脱がさずに胸骨圧迫する
  2. AEDが届いたら、衣類を脱がす
  3. ブラジャーをつけたままパッドを貼れそうなら、そのまま貼る
  4. 難しい場合はブラジャーを外して、パッドを貼る
  5. 余裕があれば、除細動後にタオルや衣類をかぶせる

救助者は胸を見る余裕はない

ブラジャーを外すにしろ、外さないにしろ、胸を見られることを懸念する女性もいると思います。

しかし、実際に救助する場合はそんな余裕はないはずです。

「人が倒れている!心配蘇生をしなければ!」という状況では、ほとんどの人が余裕を持てないはずです。

MRI / Pixabay

また胸骨圧迫はかなりの労力を必要とします。人の骨を曲げることで心臓を圧迫するわけですから、思った以上の力が必要です。それを何分も継続しなければいけないのですから、体力的にも大変です。

胸骨圧迫でもAEDを使用する際にも、救命者が注意しているのは傷病者の意識が戻るかどうかです。

胸骨圧迫の間は顔を観察することになるでしょう。AEDの心電図測定や除細動の際には、胸骨圧迫をやめて傷病者を注視することになりますが、それでも傷病者の意識が戻るかどうかに注意をしているはずです。

少なくとも私は救命講習の際に、傷病者(人形)の細かいことまで気を配る余裕はありませんでした。手順をこなすだけで精一杯です。

利用者の多い施設では配慮が必要

救命者は女性の胸を見る余裕もないでしょうが、救命に加わらない第3者に興味本位で見られる可能性はあります。

人通りの少ない場所での心配蘇生の場合には、第3者も少ないでしょうし、そもそも対処の方法もありません。

しかし、駅やショッピングモールなど利用者の多い施設では、蘇生中に大勢の人に見られる可能性があります。

それを考慮してそうした施設では、医療テントや衝立などを用意しておくべきでしょう。


AED用救命テント

医療用衝立

訓練用人形にブラジャーをつけてはどうか?

AEDの女性への使用が度々議論される背景には、救命講習での訓練が基本的に男性の傷病者を想定していることもあるように思います。

救命講習で使用される訓練用人形は、基本的には男性型タイプです。

そのため、救命講習での訓練も男性の傷病者を想定したものになり、「ブラジャーを外すべきかどうか」というようなことは訓練の工程にはないのです。

仮に訓練用人形にも女性タイプがあれば、「ブラジャーを外さずにパッドを貼り付ける」訓練を行うこともできます。また「人形よりも体格の小さい女性は外さないとうまく貼れない」というような認識が受講者に生まれることにもなります。

pixel2013 / Pixabay

「救命講習ではブラジャーを外さなくてもいい場合を想定して訓練している」という認識が広まれば、AEDの女性への使用に関して、冒頭のようなデマが広まる余地も少なくなります。

心肺停止になるのは男性の方が幾分多いとは言え、半分近くは女性です。女性を想定した訓練は必要ではないでしょうか?

救命講習の受講者が増えることが大切

女性へのAED使用に関して、女性側からも男性側からも懸念が生じたり、冒頭のようなデマが広がるのは、救命講習の受講者がまだまだ少ないことを示しているのかもしれません。

心臓突然死で年間7万人が亡くなっている現状を認識できていれば、救命のためには最悪胸を露出させるのもやむをえないと理解できるようになります。

また、胸骨圧迫やAEDの使用は想像以上の労力と緊張感の中で行われることを自分が経験したならば、胸を露出させることのへの懸念や悪質なデマも少なくなるはずです。

AEDによる除細動の実施数が増えれば、より女性への配慮を施した方法論が生まれることも期待できます。







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