AEDを導入する前に考えること

工事現場・建設業でのAED導入のポイント。雇用対策にAED導入を活用

投稿日:

業務を原因とした負傷・疾病・死亡(労働災害、労災)による死傷者数は平成29年(2017年)には約12万人にのぼり、そのうち約1千人が死亡しています。

建設業の死亡者数は全業種の約33%になり、もっとも死亡災害が多い業種です。そのため、心肺停止に対する備えが一番必要な業種だとも言えます。

また、最近の労働力不足の情勢の中でも、建設業は特に働き手が不足していると言われています。多くの企業がAEDを導入している理由の一つに「企業イメージのアップ」がありますが、労働災害の多い建設業では特にその効果を期待することができ、雇用面でのアピールにもつながります。

こうしたことを考慮して、建設業がAEDを導入するポイントをまとめてみました。

bridgesward / Pixabay

建設業がAEDを導入するメリット

AEDの導入にはそれなりの費用がかかります。

建設業は危険が伴う職種なので倫理的な見地から安全対策を行うことは当然のことですが、企業が営利団体である以上、費用に見合う効果が必要になってきます。

そうした営利団体としての建設業がAEDを導入するメリットには以下のようなことがあげられます。

  • 従業員や就職希望者へ会社が安全対策を行なっているアピールになる
  • 事故の際の人的損失を軽減する
  • 社外へのイメージアップにつながる
  • 安全管理の意識向上が期待できる

多くの企業がAEDを導入するのは企業のイメージアップのためだと考えられますが、実際に労働災害が多い建設業ではより現実味をおびて効果が高くなります。

従業員や就職希望者には、会社が安全管理に積極的であることを具体的に示すことになり、社外の発注元や取引先へのアピールにもつながります。

voltamax / Pixabay

また、労働災害が実際に起これば人員の補充や業務の調整などで、会社にとっては時間的・金銭的な損失が出る可能性があります。AEDの導入によって救命が成功すれば、負傷者が早期に復帰することが可能になり、そうした会社の負担も軽減されることになります。

AEDを設置すると、AEDの保守管理や心肺蘇生法の訓練などが必要になってきます。これらを既存の安全管理に組み込むことで、従業員の危機管理への意識が向上することも期待できます。

このように、安全管理が必要とされる建設業は、他の業種に比べてAED導入のメリットが大きくなります。労働力不足が問題となっている現在では、特にです。

建設業界は労働力不足

少子高齢化が進む日本では労働力が慢性的に不足することが懸念されていますが、建設業は特に労働力不足が問題視されています。

(前略)
建設経済の現状を見ると、景気回復や東日本大震災からの復興需要、国土強靱化の推進、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催等により建設投資は近年増加傾向が見られる。
また、建設労働者の現状を見ると、建設技術者や技能労働者等、建設関連職種の有効求人倍率は高止まりしており、第八次計画策定時の雇用の過剰供給から人材不足へと大きく変化している状況にある。さらに、建設業の労働力の年齢構成を見ると、他産業に比べて高年齢層(55歳以上)の割合が高い一方、若年層(15~29歳)の割合が低く、また、他産業に比べて新規学校卒業就職者の入職が少なく、定着が悪い状況はますます深刻化している。

建設雇用改善計画 /厚生労働省

上記は厚生労働省の建設業界の雇用対策計画からの抜粋です。

要点をまとめると以下のようになります。

  • 日本経済は平成25年から回復基調。それに伴って雇用情勢は改善し、企業は雇用不足
  • 復興需要やオリンピックへの建設投資で建設業界は特に活況
  • 建設業の需要増に対して労働力は特に不足
  • さらに建設労働者の高齢化が進んでいる

こうした状況に国は危機感をおぼえているようで、厚生労働省と国土交通省が共同で建設業界の雇用を支援する取り組みを行なっています。

建設業の人材確保・育成に向けた取組の概要を公表します/厚生労働省

建設業の死亡災害

建設業の労働力不足・労働者の高齢化(若年層の定着率の低下)の背景には、労働条件が他業種にくらべて悪いことがあると考えられます。これは労働災害の件数の多いことでもみてとれます。

労働災害統計確定値 (平成29年)より作成

上図は平成29年(2017年)の業種別の死亡災害統計ですが、建設業の死亡者は全体の33%を占めており、全業種のトップとなっています。

下図は平成29年の業種別死傷災害統計です。死傷災害とは死亡と4日以上の休業が必要となった負傷とを合わせたものです。建設業は第三次産業を除けば製造業に次いで死傷者数が多い結果となっています。

労働災害統計確定値 (平成29年)より作成

もともと業種の特性上、建設業では安全対策が必要ですが、労働力不足の現状では特に必要になってきます。

安全対策・従業員満足で競争力強化

前述のように、災害復興やオリンピックなどで建設投資は増える見込みですが、その需要に見合う労働力が不足していることが建設業界の現状の問題です。

逆に言えば、労働力を確保することができれば、業績を伸ばすことが可能な環境だということです。

労働力の確保には、給与面などの雇用条件の向上に加えて、労働災害発生率の高いこの業界では安全対策の充実も重要です。

リスクアセスメントの実施などの予防策とともに、応急手当ての習得やAEDの配備などの事故発生時の対応策に力を入れることが、従業員満足につながり、結果的に業績アップにつながっていくのです。

建設業でのAED導入のポイント

以上のことを踏まえて、建設業でのAED導入のポイントをまとめてみました。

1. 小児モードは必要ない

工事現場では子供がいることはまずありませんから、小児モードについては必要ありません。

2. 音声ガイダンス・液晶表示付き

工事現場では作業の騒音が大きいため、AEDの音声ガイダンスが聞こえにくくなります。それを補うために液晶画面にも指示が出る機種がオススメです。

また、周囲の騒音に合わせて、音声ガイダンスのボリュームが大きくなる機種もあります。

参考記事AED主要機種を機能・特徴ごとに比較

3. 消耗品コスト・バッテリー容量

工事現場では他の施設よりもAEDの使用頻度は高くなります。電極パッドは使用するたびに交換が必要になるので、こうした消耗品コストが安い機種を選ぶべきです。

機種や販売店によっては、消耗品交換が定額のサービスもあるので、そちらを選ぶのもいいでしょう。

レンタルは料金に消耗品交換コストも含まれていることが多いので、使用頻度が多い場合にはお得になりますが、複数台を導入する場合などでは購入する方が単価交渉しやすくなります。

使用するたびにバッテリーも消耗するので、バッテリー容量の大きさ(耐用年数の長さ)にも注意しましょう。

参考記事AEDの消耗品コストを機種ごとに比較。消耗品コストは年間いくらなのか?

4. 防塵・防水・耐振動

工事現場は粉塵が舞っていたり、屋外で雨に濡れたりと、精密機器にはよくない環境です。

防塵・防水の耐性がある機種のほうが、故障などが起きる心配も少なくなります。

また、重機や車両の出入りで発生する振動も精密機器にはいい影響を与えません。選んだ機種が耐振動の規格をクリアしているかどうかも確認してみましょう。

下記の記事ではAED主要機種の防塵・防水・耐振動性能の比較を行なっています。参考にしていてください。

参考記事AED主要機種を機能・特徴ごとに比較

5. 複数台の導入

異なる現場にAEDを配備するためには複数台導入することが望ましいです。

AEDの単価を下げることで、複数台導入のハードルを下げることができます。

参考記事【購入前に要確認】AEDの価格を抑えて購入する方法とは?

6. 機種の統一

複数台を導入する場合には、機種を統一すると消耗品を共有できたり、マニュアルも1つで済むなど便利です。

7. AEDの設置場所

安易に現場事務所に置くのではなく、事故が起こりうる場所に均等にアクセスできる場所が望ましいです。広い現場では複数台の配置も検討してみましょう。

8. ファーストエイド

ファーストエイドとは急なケガや病気をした人を助けるために最初にとる行動のことです。従来は「応急手当」と呼ばれていたものですが、JRC蘇生ガイドライン2015で心配蘇生法と区別する目的で「ファーストエイド」という呼称が採用されるようになりました。

ファーストエイドには、心肺蘇生以外の様々なケガや病気への対処法が含まれています。

建設業での労働災害は「墜落・転落」が約34%、「転倒」「飛来・落下」「はさまれ・巻き込まれ」「切れ・こすれ」がそれぞれ10%前後と、ケガが多いのが特徴です。心肺蘇生よりもファースドエイドが必要になる場面が多くなります。

 

そこで心肺蘇生法と合わせて、ファーストエイドも実施できるように習得しておくことが望ましくなります。

心肺蘇生法だけではなく、ファーストエイドの講習も受講するのが一番ですが、書籍や動画でも概要を確認することができます。

救急蘇生法の指針〈2015〉市民用・解説編

参考動画ファーストエイドについて/Firstaid-japan

補助金を利用してAEDを導入する

AEDの導入には費用がかかりますが、補助金を利用することで導入費用を軽減することができます。

1. 建設事業主等に対する助成金(厚生労働省)

前述のように厚生労働省と国土交通省が協力して、建設業界の雇用を促進させる支援を行なっています。具体的には下記のような雇用に関する様々な助成金が設けられています。

建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)/厚生労働省

これらの複数の助成金を利用することで、規模の小さな会社でも数百万円の助成を得ることが可能です。

助成金で浮いた費用でAEDを導入するなど、雇用環境を向上させるために使えば、より雇用の促進を図ることができます。

2. あんしん財団助成金

あんしん財団は中小企業向けに保険や補助金、福利厚生サービスを行っている共済団体です。

加入すると、AED購入の助成金を利用することができます。

それ以外にもケガの補償や福利厚生サービス、災害防止備品購入の補助など、さまざまなサービスを従業員1人につき月額2,000円の会費で受けることができます。

あんしん財団のサービス

  • 死亡保険金 1,000万円
  • 入院保険金 1日6,000円
  • 定期健康診断補助金 1名2,000円
  • 契約宿泊施設・ゴルフ場の利用補助 2,000円
  • 労災時の使用者賠償責任保険金 1事故あたりの限度額10億円
  • 安全衛生設備の購入補助
  • AEDなど救急対策用設備の購入補助

入院保険金や使用者賠償責任保険などが充実しているので、まさに建設業向きの共済制度です。

あんしん財団

まとめ

繰り返しになりますが、けがの多い建設業こそ、心肺停止に対する備えが必要な業種です。心臓が原因でなくても致死性のケガは心肺停止に陥る可能性が高くなるからです。

あんしん財団のほかには、建設業向けのAED購入の補助金はあまりないようですが、雇用面での補助金は政府が力を入れています。この補助金を利用することでAED購入に限らず、他の投資的な取り組みの財源を確保することができます。

補助金を利用しながら、あんしん財団に加入することもできます。未加入の方は検討してみてはどうでしょうか。

 







よく読まれている記事

1

多くの自治体などではAED普及のために、AED導入の補助金・助成金が用意されています。 こうした補助金を利用すれば、AED導入のネックとなる価格面での問題をクリアすることができます。AEDには公的なイ ...

2

AEDの普及はこの数年で大きく進みましたが、まだなじみがないという人が多いのも事実です。 以下ではAEDに関するよくある疑問を取り上げて見ました。 Q:AEDを使用するには資格が必要なのか? A:AE ...

3

今では医療従事者だけではなく一般市民も使用できるようになったAED。その歴史についてまとめてみました。 AEDの歴史は大きく以下の3つに分けることができます。 AED開発の歴史 アメリカでのAED普及 ...

-AEDを導入する前に考えること

Copyright© AED導入のヒント , 2024 All Rights Reserved.