AEDの普及はこの数年で大きく進みましたが、まだなじみがないという人が多いのも事実です。
以下ではAEDに関するよくある疑問を取り上げて見ました。
目次
- Q:AEDを使用するには資格が必要なのか?
- Q:AEDを設置するには資格が必要なのか?
- Q:AEDの設置は義務なのか?
- Q:AEDの導入・設置にはどのような費用がかかるのか?
- Q:AEDの保証期間と耐用年数との違いは?
- Q:訓練機種のレンタルはないのか?購入前に触る事ができないか?
- Q:古いAEDは回収してもらえるのか?
- Q:AED以外にも除細動器はあるのか?
- Q:AEDの設置場所を知りたい
- Q:AEDは子供に対しても使用できるのか?
- Q:AEDを女性に使用する際は胸を露出させてもいいのか?
- Q:傷病者が濡れていてもAEDは使用できるのか?
- Q:ペースメーカーを植え込んでいる人にもAEDは使用できるのか?
- Q:AEDは心室細動以外の心停止にも有効なのか?
- Q:人工呼吸と胸骨圧迫(心臓マッサージ)ではどちらを優先すべきなのか?
- Q:のどに物をつまらせた場合にはどのように対処すればいいのか?
- Q:故障以外でAEDが使用できない状況はあるのか?
- Q:救命講習はどこで受けられるのか?
- まとめ
Q:AEDを使用するには資格が必要なのか?
A:AEDを使用するためには特別な資格は必要ありません。誰でも使用することができます。
AEDはもともとその使用は医師に限られていました。しかし、心臓突然死に関する研究が進むにつれて、一般市民による早期のAED使用が心停止の救命率を大きく向上させることがわかってきました。
日本では、1992年に「医師の指示のもと」という条件付きで救急救命士にAEDの使用が認められたのち、2001年には航空機内での客室乗務員の使用が認められ、2007年に厚生労働省が「反復継続する意思を持たない非医療従事者(一般市民)がAEDを使用しても医師法違反にはならない」という通達を出したことで、一般市民のAED使用が解禁されました。
ですから、現在、AEDは必要であれば誰でも使用することができるのです。
Q:AEDを設置するには資格が必要なのか?
A:AEDを購入・設置するには特別な資格は必要ありません。誰でも購入することができます。
AEDを使用するのと同様に、AEDを購入・設置するのにも特別な資格は必要ありません。個人でも購入することが可能です。
ただし、AEDは厚生労働大臣が指定する「高度管理医療機器」及び「特定保守管理医療機器」にあたり、その事業所がある都道府県知事の許可を得た事業者でなければ販売できません。中古品の販売などはまず認められていませんので、購入にあたっては許可を得て販売している業者なのか確認が必要です。
Q:AEDの設置は義務なのか?
A:現在、日本の法律上ではAEDの設置は義務化されていません。
現在のところ、日本ではAEDの設置を義務づけるような法律は制定されていません。AEDの国内累計販売台数は2016年までで約68万台になりますが、それらのほとんどは各団体や施設が自主的に購入していることになります。
ただし、地方自治体や民間の団体ではAEDの設置を義務化しているところがあります。例えば、横浜市では条例により一定の規模以上の施設にはAEDの設置が義務化されています。
またJリーグでは、「ホームクラブは、すべての試合において第4の審判員ベンチにAEDを備えなければならない」(第52条)と規約に定められています。
Q:AEDの導入・設置にはどのような費用がかかるのか?
A:大別して購入費用と消耗品の費用の2つがかかります。また、永続的に設置する場合は買い替えの費用も考えておいたほうがいいでしょう。
まず購入時には本体の費用がかかります。AED本体の価格はおよそ20〜30万円ほどです。買取だけでなくリースやレンタルといった方法もあります。
消耗品の費用も考慮しておいたほうがいいでしょう。電極パッドは再使用できないので、AEDを使用するたびに交換が必要です。電極パッドの価格はだいたい1万円です。
バッテリーの寿命は4〜5年ですので、数年ごとに交換費用がかかります。バッテリーの価格はおよそ4万円です。
ただ、AEDのメーカー保障期間はだいたい5年ですので、買い替えも考える必要があります。
消耗品のコストや買い替えもあるので、AEDの導入費用については総合的に考える必要があります。消耗品代がお得になるプランを用意している販売業者もあるので、購入の際には検討されるとよいでしょう。
Q:AEDの保証期間と耐用年数との違いは?
A:保障期間とはメーカーが正常な使用の範囲での故障に無償修理をしてくれる期間で、耐用年数とはメンテナンスした上で安全に使用できなくなるまでの期間のことです。
耐用年数は機種ごとに異なりますが、およそ6〜8年の範囲です。保証期間は各機種だいたい5年です。つまり、使用はできるけれども何かあった場合にメーカーが無償修理をしてくれない期間が数年あることになります。
Q:訓練機種のレンタルはないのか?購入前に触る事ができないか?
A:訓練機種の有料レンタルを行なっている会社もあります。また購入前にサービスで無償レンタルしている販売会社もあります。
AEDのほとんどの主要機種には訓練機種(トレーナー)が存在します。訓練機種は救命講習などの訓練での使用のほかに、購入前に機種の機能などを確認するのにも有効です。
有料レンタル・無償貸し出しを行なっている例としては下記のような会社があります。
訓練機種のレンタル(有料)救命コム
無料貸し出しサービス(台数限定)AED販売.com
Q:古いAEDは回収してもらえるのか?
A:まずは購入元の販売店に相談をしましょう。廃棄する場合は産業廃棄物として処分できます。
AEDは「高度管理医療機器」及び「特定保守管理医療機器」にあたるので、処分する場合は販売店に連絡する必要があります。回収や処分については、まず購入元の販売店に相談しましょう。
処分する場合には、産業廃棄物として処分できます。
Q:AED以外にも除細動器はあるのか?
A:ICD(植え込み型除細動器)やWCD(着用型自動除細動器)があります。
ICD(植え込み型除細動器)は「Implantable Cardioverter Defibrillator」の略で、体内に植え込む形の除細動器です。心停止が起こりうる心臓疾患の治療の一環として、手術によって体内に植え込みます。不整脈を自動的に感知して、ペーシングや場合によっては除細動を行います。
WCD(着用型自動除細動器)は「Wearable Cardiac Defibrillator」の略で、ベストと一体型の除細動器です。着衣することでICDと同様に不整脈を自動的に感知して、生命に関わる場合には自動的に除細動を行います。主にICDの植込み手術までの期間に着用されるようです。
Q:AEDの設置場所を知りたい
A:日本救急医療財団の全国AEDマップで確認できます。
日本救急医療財団はHPで全国AEDマップを公開しています。これはAEDの設置場所をマップで示すもので、AED設置者の自発的な登録で作成されています。
2018年現在で約32万台のAEDが登録されていますが、これは全国に設置されているAEDの半数程度と考えられます。このマップが日本のAEDの設置場所に関しては最も網羅されています。
Q:AEDは子供に対しても使用できるのか?
A:小学生以上にも小学生未満の乳児や幼児にも使用できます。
AEDによっては小学生未満用の小児用パッドや小児用モードを備えているものがあります。これらを使用すると電気ショックの強さが通常よりも1/4〜1/3程度になります。
「JRC蘇生ガイドライン2015」では、小学生未満の乳児や幼児に対しても、AEDの使用を含めた心肺蘇生法は基本的に成人の場合と変わらないとされています。小児用パッドや小児モードがあればそれらを使用するべきですが、それらがない場合は成人用のものを使用しても問題ありません。
ただし、「小児」という言葉は通常「中学生以下」を指しますが、小児用パッドや小児モードの対象は「小学校に上がる前の乳児や幼児」になります。小学生以上に小児パッドや小児モードを使うとエネルギーの量が不十分になる可能性があるので注意が必要です。
Q:AEDを女性に使用する際は胸を露出させてもいいのか?
A:救命を最優先に考えた上で、可能であれば配慮するのが望ましいでしょう。
女性の胸を露出させたり、衣服をハサミで切ったりする行為は通常であれば訴えられるものですが、救命のためにやむを得ず行なった場合は刑法上の緊急避難にあたり罰則の対象とならないと解釈されています。
刑法第37条
1. 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2. 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
しかし、救命された女性が「救命中に他人に胸を見られたかもしれない」と気を病んでしまうことは十分考えられます。救命を最優先に考えた上で、可能ならば配慮をするのが望ましいでしょう。以下で具体的な対策を考えてみました。
女性にAEDを使用する際の配慮
1. 電極パッドを貼り付けたのちに、上着などをかぶせる
2. 救命テントなどを使用する
1. 電極パッドを貼り付けたのちに、上着などをかぶせる
まず、胸骨圧迫では衣服を脱がせる必要はありません。胸を露出させるのはAEDを使用する段階のことで、電極パッドを肌に直接貼り付けるためです。電極パッドを貼り付けた後に上着などをかぶせても、胸骨圧迫や除細動は可能です。上着などに金属部分がないかだけ注意しましょう。
2. 救命テントなどを使用する
下記のような傷病者のプライバシーを守るテントも販売されています。
Q:傷病者が濡れていてもAEDは使用できるのか?
A:電極パッドが濡れていなければ、使用できます。
傷病者の体が濡れていたり、周囲が水浸しの状況では、「自分(救命者)も感電するのではないか?」と心配になりますが、胸をタオルなどでふいて電極パッドが濡れないようすれば、問題なく使用できます。
胸が濡れていると電極パッドがしっかりと貼れないだけではなく、電気が体表を伝わって電気ショックや心電図解析が不十分になります。
Q:ペースメーカーを植え込んでいる人にもAEDは使用できるのか?
A:使用できますが、電極パッドをペースメーカーから離して貼る必要があります。
ペースメーカーとは心臓の動きを補助する体内植込み式の医療機器です。ペースメーカーを植え込んでいる人にも心停止時にはAEDを使用しなければいけません。
しかし、電極パッドの位置がペースメーカーに近すぎるとペースメーカーが誤作動を起こす可能性があるので、電極パッドはペースメーカーから3cmほど離して貼るようにします。ペースメーカーが植え込まれていると胸の左上あたりにこぶのようなものがあるので、植込み位置は判断できます。
Q:AEDは心室細動以外の心停止にも有効なのか?
A:原則として心停止が疑われる場合はすべて、AEDを使用すべきです。
AEDの電気ショックが有効とされるのは、心室細動や無脈性心室頻拍です。電気ショックがこれらの症状を一度リセットして、その後正常な心臓の動きが再開されます。
心室細動や無脈性心室頻拍以外の心停止の場合には、残念ながら電気ショックは効果がありません。しかし心室細動や無脈性心室頻拍かどうかを判断するためにはAEDを使用して、心電図解析しなければいけません。そのため、心停止が疑われるすべてのケースでAEDは使用されるべきなのです。
また、電気ショックが有効でない場合でも、AEDの心電図のデータが治療に役立つ場合もあります。「電気ショックは必要ない」とAEDがアナウンスしても救急隊が到着するまで電極パッドははがさないでおきましょう。
Q:人工呼吸と胸骨圧迫(心臓マッサージ)ではどちらを優先すべきなのか?
A:ほとんどの場合で胸骨圧迫を優先すべきですが、窒息や溺れた場合、傷病者が子供の場合では人工呼吸を組み合わせることが強く推奨されています。
「JRC蘇生ガイドライン2015」では、手順を知らなかったり、躊躇する場合には、人工呼吸を省略して胸骨圧迫のみを行うことが推奨されています。
しかし、窒息や溺水(溺れること)、対象が子供の場合は、心停止の原因が酸素不足であることが多いため、胸骨圧迫で血液を循環させることと同様に、体内に酸素を送り込む処置が必要になります。救急隊の到着に時間がかかる場合でも、人工呼吸は可能な限り行うべきです。
Q:のどに物をつまらせた場合にはどのように対処すればいいのか?
A:咳が出ている場合は強く咳をするように促し、背中を叩くなどしましょう。咳さえも出なくなれば119番通報、意識がなくなれば心配蘇生が必要です。
咳は気道につまった異物を吐き出そうとする反応ですので、咳がある場合には咳を続けさせましょう。咳があるうちは気道は完全にふさがっていません。
状態が悪化して咳が出なれば「窒息」と判断して119番通報したのち、背中をたたくなどして、異物を吐き出すことを促しましょう。対処方法がわからない場合は119番で指示を仰ぎましょう。
さらに意識がなくなった場合は「心停止」と判断してAEDの使用を含めた心肺蘇生法に移ります。ここで重要なのは異物除去よりも胸骨圧迫を優先することです。異物除去に時間を割いている間にも、血液の循環は止まっている可能性があります。体内に酸素が供給されなくなったのちの心停止なので人工呼吸を組み合わせることも重要です。
参考記事保育所・幼稚園でのAED導入のポイント。窒息・誤嚥・溺死・アレルギーなどの事故対策。
Q:故障以外でAEDが使用できない状況はあるのか?
A:気温が氷点下以下の状況ではAEDは正常に作動しない可能性があります。
AEDの使用可能な気温は0〜50℃とされていますので、氷点下や極端な高温の環境では正常に作動しない可能性があります。特に冬場は夏場に比べて心臓突然死の発生頻度が高まるので、寒冷な状況では注意が必要です。
対策としては「冬場や寒冷地では暖かい場所でAEDを保管する(屋外に設置しない)」「気温の低い場所にAEDを運ぶときはAEDにも防寒を施す」などが挙げられます。自衛隊やNHKの実験で、直前まで暖かい部屋に保管しておいたAEDは氷点下でも数分間は正常に作動するという結果が出ています。
厚生労働省やAED製造メーカーも、寒冷な環境でのAEDの保管・使用には注意を呼びかけています。
Q:救命講習はどこで受けられるのか?
A:各地の消防本部や日本赤十字社などが救命講習を開催しています。
AEDの使用法も含めた心肺蘇生法を学べる救命講習は、各地の消防本部や日本赤十字社が開催しています。まずは最寄りの消防署に問い合わせてみるのが一番でしょう。
減らせ突然死プロジェクトのHPでは全国の講習会情報がまとめられています。参考にしてみてください。
まとめ
以上、AEDに関するよくある疑問をまとめてみました。
AEDは基本的に使用方法を知らない人でも使えるように作られています。重要なのは心配蘇生の正しい手順や胸骨圧迫などの実技、AEDの保守管理などです。
この記事が心配蘇生とAEDへの理解につながれば幸いです。